法令上の制限とは
法令上の制限とは、不動産の利用や建築に関して、法律により定められた各種の規制を総称したものです。
都市計画法や建築基準法をはじめとする法令に基づき、土地の使用方法や建物の構造・規模に一定の制限が課されているのが、現行制度の特徴です。
法令上の制限に関する主な法律
- 都市計画法
- 建築基準法
- 国土利用計画法
- 農地法
- 土地区画整理法
- 宅地造成等規制法
事前確認の重要性
これらの制限は、土地活用の自由度に大きく関わるため、事前に法令上の制限を確認することが非常に重要です。
建築計画の段階では、建築確認申請前の「法令調査」を行い、計画建物が各種法令に適合しているかどうかを検証することで、トラブルや手戻りを回避できます。
都市計画法とは
都市計画法は、都市の健全な発展と秩序ある整備を図るための基本法です。都市計画区域・準都市計画区域・都市計画区域外の3つに全国の土地を区分し、それぞれに応じた土地利用規制と建築制限を定めているのが制度の骨格となります。
市街化区域と市街化調整区域を定める線引き制度により、計画的な市街地形成が図られています。市街化区域では用途地域による建築物の用途制限があり、市街化調整区域では開発行為に都道府県知事許可が必要となるのが代表的な規制です。
用途地域は住居系・商業系・工業系の13種類に分類され、各地域で建築可能な建物の種類が決められています。容積率や建蔽率の制限と合わせて、防火地域・準防火地域、風致地区などの特別用途地区により、より詳細な建築制限が課されるのです。
都市計画施設や地区計画の指定により、道路・公園・下水道などの都市基盤整備と一体的な土地利用規制が行われます。都市計画決定や都市計画変更の手続きを経て、都市計画マスタープランに基づく長期的な都市づくりが推進されているのが現状です。
不動産取引では、対象物件がどの区域・地域に属するかの確認が不可欠となります。開発許可の要否や建築制限の内容を事前に調査し、立地適正化計画との整合性も含めて適切な土地活用計画を検討することが重要となるでしょう。
建築基準法とは
建築基準法は、建築物の安全性と市街地環境の確保を目的とする建築規制の根本法です。構造基準・防火基準・避難基準・衛生基準を定めることで、国民の生命・健康・財産を保護し、建築物の最低限の性能を確保しているのが法律の基本理念となります。
建築確認制度により、建築物の新築や大規模修繕には建築確認申請が義務付けられています。建築主事または指定確認検査機関による審査を経て確認済証の交付を受け、工事完了後には検査済証を取得することで適法な建築物として認定されるのです。
敷地と建築物の関係では、容積率制限・建蔽率制限・高さ制限により建築可能な規模が決定されます。道路斜線制限・隣地斜線制限・北側斜線制限の各斜線制限と日影規制により、周辺環境への配慮が義務付けられているのが特徴的です。
接道義務により、建築物の敷地は幅員4メートル以上の道路に2メートル以上接することが求められます。セットバックが必要な場合もあり、建築物の用途や特殊建築物の規制も重要な制限要素となるのです。
既存不適格建築物や違反建築物については、是正命令や使用禁止命令の対象となる可能性があります。新耐震基準と旧耐震基準の違いを理解し、適法性の確認と必要な改修工事により建築基準法への適合を図ることが不動産取引では重要となるでしょう。
国土利用計画法とは
国土利用計画法は、適正かつ合理的な土地利用の確保と投機的取引の抑制を目的とする土地取引規制法です。一定面積以上の土地取引について事前届出制または許可制により規制し、乱開発の防止と地価の安定を図っているのが制度の基本的な仕組みとなります。
規制区域では許可制、監視区域では届出制が適用され、注意区域では事前届出制となり特別な規制は課されません。全国一律の届出制により、市街化区域では2000平方メートル以上、市街化調整区域では5000平方メートル以上の土地取引が都道府県知事への届出対象となるのです。
土地利用基本計画に基づき、都市地域・農業地域・森林地域・自然公園地域・自然保全地域の5地域制により土地利用の調整が行われています。各地域の性格に応じて面積要件が設定され、利用目的の審査と取引価格の審査により適正性が判断されるのが特徴です。
届出内容が国土利用計画に適合しない場合や取引価格が適正でない場合には、勧告が行われることがあります。土地取引の届出義務を怠った場合は罰則の対象となるため、事前の面積確認と適切な手続きが不可欠となるのです。
不動産取引では、対象土地の面積と所在地域を確認し、届出の要否を判断することが重要です。土地利用の適正化という法律の趣旨を理解し、計画的な土地活用により健全な不動産取引を実現することが求められるでしょう。
農地法とは
農地法は、優良農地の保全と農業生産力の確保により食料の安定供給を図る農地保護法です。農地転用や農地の権利移動について許可制を設け、農業以外の用途への無秩序な転用を防止し、農業経営の効率化と農地の集約化を促進しているのが法律の基本目的となります。
農地転用許可は、農地法第4条許可(農地所有者による転用)と農地法第5条許可(権利移転を伴う転用)に分類されます。市街化区域内農地では届出制、市街化調整区域内農地では農業委員会または都道府県知事許可が必要となり、優良農地では農林水産大臣許可が求められるのです。
農地の所有権移転や賃借権設定には農地法第3条許可が必要であり、農業従事者以外への権利移転は原則として制限されています。農業振興地域内の農用地区域では転用が厳格に制限され、住宅用地への転用や商業用地への転用、工業用地への転用は極めて困難となるのが実情です。
転用許可の判断では、農地区分に基づく立地基準と転用事業の確実性が重要な審査要素となります。周辺農地への影響や代替性の有無も考慮されるため、事前の十分な調査と計画策定が不可欠となるのです。
農地に関する不動産取引では、農地転用許可の取得可能性を事前に確認することが重要です。農業委員会への相談により転用の見通しを把握し、適切な許可手続きを経て合法的な土地活用を実現することが安全な取引の前提となるでしょう。
土地区画整理法とは
土地区画整理法は、土地区画整理事業により宅地の利用増進と都市基盤整備を図る都市開発の根幹法です。第1条に定める目的により、施行地区内の土地を再配置し道路の整備や公園の整備と一体的に土地の整形化を行い、健全な市街地形成を促進しています。
換地の手法により従前地の所有者は新たな土地を取得し、減歩制度で公共施設用地を創出します。公共減歩(第104条)と保留地減歩(第105条)により事業費を確保し、仮換地の指定から換地処分まで段階的に権利関係を整理するのが特徴的な事業手法となるのです。
第76条に基づく建築制限により、施行地区内では建築行為の許可が都道府県知事から必要となります。施行者には個人施行・土地区画整理組合・区画整理会社・地方公共団体施行・国土交通大臣・独立行政法人都市再生機構施行があり、事業計画と設計の概要に従って事業が実施されるのが法定手続きです。
換地計画の決定により各土地所有者の権利が確定し、事業完了時には清算金による金銭調整が実施されます。従前地と換地の価値差について清算金の徴収または交付により公平性を確保するのが制度上の重要な仕組みとなっています。
土地区画整理事業区域内の不動産取引では、仮換地の状況と第76条建築制限の適用を十分確認することが重要です。事業進捗と換地予定地の位置を把握し、将来の土地利用計画を踏まえた慎重な投資判断により安全な取引を実現できるでしょう。
宅地造成等規制法とは
宅地造成等規制法は、がけ崩れや土砂の流出による災害の防止を目的とする宅地安全規制法です。宅地造成工事規制区域内での造成工事について許可制を設け、造成宅地防災区域では防災工事を講ずるよう命ずることで宅地の安全性を確保しているのが制度の基本構造となります。
宅地造成等工事の許可要件として、A切土部分に2mを超える崖を生ずるもの、B盛土部分に1mを超える崖を生ずるもの、C盛土部分に1m以下の崖を生じ、かつ切土と盛土を合わせて2mを超える崖を生ずるもの、またはA〜C以外で、切土又は盛土の面積が500㎡を超えるものの造成工事が対象となります。都道府県知事の許可を受け(第8条)、造成工事の技術基準に従って(第9条)擁壁の設置・排水施設の設置・のり面の保護を行う必要があるのです。
工事完了後には検査を受けて検査済証の交付を受けることが義務付けられています。(第13条)地盤の安定や斜面の崩壊防止の観点から、技術基準に適合しない場合は改善命令や工事の停止命令が発せられる場合があるのが特徴です。(第14条)
宅地造成工事規制区域内の不動産取引では、造成工事の適法性と検査済証の有無を必ず確認することが重要となります。防災工事の実施状況や維持管理の状態を把握し、安全な宅地への投資により災害リスクを回避することが賢明な判断となるでしょう。


コメント